腹が減っては戦ができぬ

腹が減っては戦ができぬ

腹が減っては戦ができぬとは、何事も腹が減っていてはよい働きはできないというたとえのこと。

そして、今回は「大晦日だよ筋トレがよくわかるブログ特別企画『魔法の国からはるばると』」の続きである。

「おお、これが異世界か!」という感動は全くなかった。

 

なぜなら異界の門をくぐった先は、建物と建物の間らしく薄暗かったからだ。

 

そのうえ地面は黒いし建物の壁は灰色で、よけいに薄暗く感じる。

 

だが見上げたところ、背の高い建物に挟まれて小さく見える空は明かるい。

 

ふむ、この世界の空も青いのだな。

 

少し道幅が広いようだが、どうやら私は路地にいるらしい。

 

「ゴホッゴホッ」

 

どうでもいいが空気が悪い。

 

何だ、この形容しがたい臭いは?

 

肉を焦がした臭いでもないし、木々や建物が焼け焦げる臭いでもない。

 

かと言って何かが腐った臭いでもない。

 

いったい何をどうすれば、空気が臭くなるのだ?

 

こんな所で暮らしたら痩せる前に体を悪くするぞ。

 

それにやたらと獣の鳴き声や耳に障る音がして落ち着かない。

 

「なあ、他にもっと空気が良くて静かでアサヒナシュウヘイみたいな者がいる世界はないのか?」

 

私はそう言いながら振り返った。

 

ところが、つい先ほどまでそこにあった異界の門は消えてなくなっていた。

 

当然、側近もいない。

 

へ?

 

ない?

 

おい、嘘であろう?

 

「おおい! おおい!」

 

私は先ほどまで異界の門があった空間に向かって叫び、右手で扉を叩くまねをした。

 

しかし、右手は虚しく空をきる。

 

もちろん側近の返事もない。

 

それでも諦められない私は門のあったところをウロウロしたり、しゃがんでジロジロみたりした。

 

挙句の果てに何もない空間に向かって「おおい、門を開けてくれ」とか「なあ本当は聞こえているんだろう? 怒らないから開けてくれないか?」と声をかけたりもしたが、異界の門は現れない。

 

ああ、どうすれば良いのだ?

 

私は、魔界に戻ることができなくなってしまった!

 

実を言うと、私は強大な魔力を持っているのだが、どちらかというと魔法は苦手だ。

 

そうは言っても全く魔法を使えない訳ではない。

 

多少は魔法を使えるのだが、上級魔法である異界の門や瞬間転移は使えないのである。

 

つまり私には魔界に戻る術がないということだ。

 

「これでは、かつての力と肉体を取り戻したところで、もう二度と魔界に戻れないではないか」

 

私は独り言ちると壁にもたれ掛かり、そのままズルズルと腰を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「グウ」

 

腹が鳴った。

 

こんなときでも腹は空くのだな。

 

それに少し冷えてきた。

 

そう言えば、こちらに来てどれくらい時は過ぎたのだろうか。

 

気がつくと辺りは、ずいぶんと暗くなっていた。

 

両方の二の腕をさすりながら、私は路地の先に目をやる。

 

すると路地の先に見える風景は黄金色に染まっていた。

 

このまま異界の門が開くのを期待して待ってもしかたない。 

 

食べ物でも探しに行くか。

 

それに日が暮れる前に宿も探さないと、野宿するはめになる。

 

そうなっては夜通し眠ることはできないだろう。

 

この世界にどんな獣や魔物がいるのか分からない。

 

また、夕方の冷え込みから考えると、きっと夜中は寒くなるはずだ。

 

火を絶やさないように薪をくべる必要もある。

 

そんな所に一人で野宿するのだ。

 

落ち着いて眠れるはずはない。

 

野宿するにしても明るいうちに場所を探さなければならないし、それなりに道具を要する。

 

早く道具を売っている店を探さないと。 

 

しかし、その前に何か羽織らねば、だいぶん冷えてきたし寝間着姿のままだ。

 

ほんとうは着替えたいところだが、このような場所で着替えるのは憚られる。

 

確か背負い袋に着替えが入っていると側近は言っていたな。

 

背負い袋を探り、羽織るのに丁度いいものを見つけたので袖を通した。

 

暗灰色の羽織ものは少しゆったりしているものの、着心地はよくて暖かい。

 

しかも丈は膝下まであり私の肥えた下半身を隠してくれる。

 

私は、この暗灰色の糸を編んだ羽織ものを気に入った。

 

これなら寝間着も隠れるし、この格好で歩いてもおかしくはないであろう。 

 

よし出発だ!

 

私は黄金色に染まる外に向かって歩き出した。

 

 

 

 

この物語は、地球のどこかにある町に落ち延びた、肥満体型の魔王が魔界を奪還するために少しずつ減量する様子を描いたコメディである。

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